2016年12月22日木曜日

エコノミスト誌未来予想日本版に寄稿

毎年恒例、英国エコノミスト誌の未来予想。 

こちらの日本版に寄稿させてもらいました。 

スポーツ分野におけるデータ活用の展開について、その方向性と課題を見開き1ページで紹介しています。

 

 競技面では下記リンクの楽天イーグルスの取り組みにあるようなトラッキングデータを基にした技術トレーニングが本格化するでしょう。
<楽天の挑戦>3D映像で球筋予習(河北新報社、2016年11月29日付)
ビジネス面でもトラッキングデータを用いたファンサービスが加速するだけでなく、 ファンの心理・行動面のデータを活用したサービス改善、マーケティング、観戦経験自体の質向上が期待されます。

 しかし、課題も山積み・・・。
これらを解決できる人材、組織、教育が求められているといえます。

 ご一読頂ければ幸いです。

2016年12月13日火曜日

ニュース解説:IT企業×スポーツ “蜜月”が続くワケ 楽天、DeNA、ZOZO……(IT Mediaニュース, 2016年12月12日)


ロゴ出所:yx_zozo.jpg

NewsPicksを通じて知ったIT Mediaニュースのこの記事。

企業とNPB球団との関係についてコメントを書いたのですが、
かなり長くなってしまったのでこちらのブログに転載します。

ここでは以下の流れを大まかに解説しています。
①NPB球団が歴史的に親会社の「マーケティングの客体」であったこと②ゆえに球団が独自に稼ぐことを求められなかったこと (いわゆる国税庁通達がこの性質を強めたこと)③バブル崩壊後の社会変化の中で価値観が変わり、 球団経営に独立採算が求められるようになったこと④球団経営にビジネスのノウハウが注入されるようになり、 宣伝効果はそのままにグループシナジーが生み出されるようになったこと
ご興味ある方は以下をお読み下さい。

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 NPBの宣伝価値は今もとてつもないです。
そのため、昔から球団は親会社の広告塔であり、「マーケティングの客体」という側面が色濃かったワケです。

 そもそもNPB誕生の発端は新聞業界の部数拡大競争で甲子園(朝日新聞)、選抜・都市対抗野球(毎日新聞)を抑えられていた読売新聞が大逆転を狙って企画した「日米野球」がきっかけになっています。

アメリカメジャー選抜と対戦したこの日米野球は大成功しましたが、
学生主体の日本代表チームがプロと対戦することの教育的影響を問題視した文部省が「野球統制令」を発令し、ここにプロとアマの断絶が最初に生まれました。
この課題を回避するために読売新聞が中心となって発足させたのが巨人軍であり、「職業野球連盟」なわけです。

 発足当時は新聞社と電鉄企業が球団の親企業として名を連ねました。前者は発行部数拡大を、後者は乗降客の増加を目論んだものであり、現在の目で見れば、これは親会社の明確なマーケティング活動といえます。

 あくまで本業の成果向上を目指したものですから、球団単体のビジネスは度外視という状態であり、1964年には既に「球団経営はビジネスとはかけ離れている」という旨の指摘(しかも、球団オーナー自らの!)がなされています。

 そこにはいわゆる国税庁通達が広告宣伝費名目での親会社による球団赤字の期末補填を認めている事も手伝って「自力で稼ごう(稼がせよう)」とする意識が育まれないまま、現在から10年ほど前までその体制が引き継がれてきたわけです。

(もちろん、そこには「スポーツビジネス」という概念も、意識も、人材も、手法も希薄だったので仕方ないといえばそうなのかもしれませんが。)

 そんな中、バブル後の不況、株主主権意識の高まり、社員からの反発(なんでリストラしてる一方で赤字球団は残すの?選手にあんな年俸払うの?という意識の高まり)、そして巻き起こった球界再編問題などがあり、球団の独立採算に向けた意欲が高まってきました。

 そこにビジネスの手法が組み合わさり、球団は黒字化に向け「マーケティングの客体から主体」へと変化します。

 楽天や、ソフトバンク、DeNAなど大きな結果を出す球団も生まれ、それが新たな親会社にとっての価値も高める事になり、グループシナジーが生み出せる体制になったのです。つまり、広告宣伝効果を保ちつつ、黒字の球団を親会社は保有できるようになったということです。

 なのでビジネスがしっかりでき、お金もあるけど知名度や社会的信用を高めたい新興企業にとってNPB関連は最高に欲しいコンテンツ。そりゃ投資するよな、というのが今の状況です。

 ただ、野球だけに限らずスポーツファンは「このチームを1番愛してるのは俺たちだ!」、とか「この球団は我々のものだ‼︎」と自分ゴトとして考えてくれる方が多いので、うまくやらないと逆宣伝になってしまう場合も。そこはPRのプロのチカラを借りなければいけないところと言えるでしょう。

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上記について、より詳しい歴史的背景を知りたい方は、下記から拙稿をお読み下さい。
福田拓哉(2011)わが国のプロ野球におけるマネジメントの特徴とその成立要因の研究 : NPBの発足からビジネスモデルの確立までを分析対象に, 立命館経営学, 49(6), pp.135-159.

2016年9月27日火曜日

NewsPicksの新しい記事が公開:千葉ロッテの事例

連載させてもらってますNewsPicks、新しい記事は千葉ロッテマリーンズです。


低迷していた観客動員改善。千葉ロッテのターゲティング戦略


球界改革の旗手として名を馳せた千葉ロッテさん。
いわゆるボビー問題後、チームも動員も苦しんだ様子ですが、この2年で平均観客数を4,000人ほどのばしており、物凄い勢いで再び成長しています。

お話を伺って大変勉強になったことがたくさんありましたが、
紙幅(といってもネットですが)の関係で書ききれなかった事がいくつかありました。

例えば、
①TEAM26の顧客情報と10年間向き合い続けていること
②上記データの部署横断的活用を促す組織改編が近年行われていたこと
③組織改編の核が振興部の創設であり、これが事業本部に置かれていること
④振興部が事業本部内の組織横断プロジェクトの主担当であること
という4点です。

①は記事にも登場する原田さんがキーマンです。
仮説・実行・検証の各ポイントで必ずデータを活用し、全社的な戦略会議にもそれを落とし込んでいます。部長クラスがデータに明るいというのは大事なポイントですね。

②〜④を司る部署の責任者が記事に登場する高坂さんです。
そもそも通常はチームサイドに置かれることが多い「振興部」が事業本部に置かれる事によって、「地域貢献活動」と「事業」の融合が図られます。
「社会的に良い活動なんだから、売上や利益は二の次で良いよね」となりがちな活動に「それはダメ!両方を同時に目指すよ!!」という視点が加わるのが非常に重要だと思います。

この文化が組織改編によって社内に広まり、今では高坂さんがイベントに参加する選手にもデータを使ってその背景や狙いを説明するそうです。
(選手が納得して活動に参加するから「やらされている感」が無くなったと!)

こうした状況にスタジアムの指定管理権取得やチームの成績、スタジアム施設への投資が相まって今の状況となっている、というのが適切な解釈だと思います。

ファンクラブ重視という考え方には賛否あると思いますが、こうした市場環境での1つの方法としてお読みいただければと思います。

2016年7月8日金曜日

別に勝たなくてもいいって言ってるわけじゃないんですケド・・・


今週火曜日、News Picksに新たな記事をアップしてもらいました。
オリックスの記事(前編)で「顧客志向」を扱ったものです。

勝てなくても観客増。ファンをつかむオリックスの「顧客志向」
お陰さまでこちらもたくさんの方にPick頂き、2016年7月8日(金)正午時点で220Pickを記録しています。

概ね皆様から頂いたコメントも好意的なものが多く、内容も深くご理解頂いていると感じています(凄く嬉しいことです!)。

でも、一部の方からは「勝てないことを肯定している」みたいなコメントをもらっています(twitterも含め)。

う〜ん、大多数の方がお分かりのように、勝てないことを肯定しているわけじゃないんですけどね・・・(苦笑)。

大事なことは記事の冒頭に書いているように、チームの状況に関わりなく、いかにファンをスタジアムに集めるか――。」なんです。

つまり、チームが強いときはもちろん、勝てない時もスタジアムを一杯にするのがスポーツマーケターの使命である、ということです。


特に勝てない状況でファンを増やすのは非常に難しいワケで、この偉業を3年連続で形にできている球団の1つがオリックスであり、なぜそれができたのか深掘りしていきましょうよ、ってことが今回の記事で伝えたかったことなんですよね〜。

(そして、スタジアムを満員にすることが実はチーム強化に密接に関係しているんですね。)


さて、ここでプロスポーツビジネスの大まかな傾向を改めて振り返ると、以下の2つを指摘できます。
①チーム年俸総額とリーグ戦順位は中長期的に高い相関関係にある
⇒お金持ち球団ほど優勝の可能性が高く、優勝の可能性が高い球団ほど選手年俸が高い 
②チームの成績が良いとお客さんが多く入りやすい

①はレスター・シティのプレミア制覇が如何に奇跡的であったかを説明するのによく使われる傾向です。なんせイギリスプロサッカーリーグでは、年俸と順位の中長期的な相関関係は非常に強く、年俸が順位の90%を説明する形になっています。
詳しくは下記の本をご覧ください。




②は感覚的にわかりやすいのではないでしょうか?確かにチームが優勝争いをすると観客数はグッと増えますね。
逆に勝てないと観客数がググッと減る傾向が強くなるわけです。(繰り返しになりますが今回の記事で伝えたいのはオリックスはそんな逆境で結果を残したということです。そこには我々が学ぶべき要因がたくさんあるのではないでしょうか。)

もちろん、今のオリックスに競技成績が伴うことが最高です。
日本だとソフトバンクホークスがこの形に一番近いでしょう。

しかし、強いチームを作るにはお金がかかります(お金をかけたからといって絶対に勝てるわけではありませんが、勝てる確率は高くなります)。
問題はそのお金をどう作るかです。

スポーツビジネスの売上の大多数は広告料とテレビ放映権ですが、その価格を決めるのは球団の人気です。

そして、球団の人気を計る最も分かりやすいバロメーターが観客動員です。

さらに、この観客動員はチケットを買って試合観戦してくれる有償顧客の割合を増やしていかねばなりません。


そこで、冒頭の図に戻ります。


横軸をチームの成績、縦軸をスタジアムの満員度にして考えると、
あらゆるプロスポーツ球団が目指すのは両方が伴う①です。
つまり、チームとフロントの両方がしっかりと結果を出している状態です。

③はチームも弱くてスタジアムもガラガラ・・・。
両方惨敗状態で抜本的な改革が必要といえる状態です。

問題は②と④です。
皆さんならどちらを目指すでしょうか?

競技よりの方であるなら④を選択するでしょう。
「チームが強かったらお客さんが来てくれるはずだ!」という考え方です。

ビジネスよりの方でスポーツビジネスを学んでいる方は②を選択するでしょう。
「お客さんをしっかり集めてお金を作り、それをチーム強化への投資資金に回そう」という考え方です。

どっちも正しい考え方ですが、確率の問題で考えると②の方がリスクが低くなります。

なぜなら、チームの成績が年俸総額と強く相関している中で、相対的低年俸球団が優勝する確率は決して高くないからです。低迷している金満球団が復活するのは比較的容易ですが、経済的に弱小な球団が優勝を勝ち取れるチームをいきなり作るのは難しいということはご理解頂けると思います。だって、お金がないんだもん・・・。

間違ってはいけないのは、この確率は決して0ではありません。去年のヤクルトやレスターシティのようなジャイアントキリングは必ず起こります。
ただし、レスターの優勝オッズが当初はネス湖でネッシーが発見されるギャンブルの掛率よりも低かったように、数年に一度起こるかどうかのまさに大ギャンブルなわけです。

であるならば、チームの成績が良くなくても、仲間や友人と一緒に楽しめる空間づくりやファンサービスに徹底することで集客を図るほうがより確実といえます。
そして、近年はこうした傾向が各球団で強化されています。

オリジナルクラフトビールを発売したり、おしゃれなグッズを開発したDeNAしかり、
仲間とBBQをしたり、寝そべりながら試合観戦ができる球場を整備した広島しかり、
観覧車を作った楽天しかり。
(しかも、その端緒となったのは現在最強のホークスですね。100%エンタドーム宣言!、懐かしい・・・)


私の師匠である立命館大学教授の種子田先生はプロスポーツビジネスを「時間消費型エンタテインメントビジネスである」と定義されていますが、まさしくその通りだと思います。

マーケティング論の中で有名なレビットの「近視眼的マーケティング」という考え方が示す通り、
自らのビジネスを「野球をすること」と定義している球団よりも、
「野球を中心とするエンタメ提供」と定義している球団の方がより広い顧客層を確保でき、その分ビジネスチャンスが高まります

そして、しっかりビジネスをして得られた利益を使えば、チームの強化に投資をすることができます。そのためにもファンとしっかり向き合うことが大切なんですが、それが結構できていないところが多いわけで・・・。

こうした考え方を踏まえた上で、今一度News Picksの記事を呼んでいただけると、さらに私の意図したいところがご理解頂けると思います。

勝てなくても観客増。ファンをつかむオリックスの「顧客志向」


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ちなみに、球団の経済状況がチームの成績に与える影響を最小化するために取られている方法がドラフトだったり、サラリーキャップだったり、レベニューシェアだったりします。
それが一番厳格なのがNFLで、これまでスーパーボウルを3年連続で獲ったチームはありません。

ここらへんはスポーツ経済学の本を読まれるといいでしょう。

2016年6月25日土曜日

イギリスのEU離脱が決定



とてつもないインパクトでした。

イギリスがまさかのEU離脱。
民主主義の国らしいといえばそうなりますが、
予想外の結果に世界中が驚いています。

東京証券取引所はリーマン・ショック時よりも株価の下落幅が大きかったとか・・・。

まあ、正式な離脱はこれから2年後の話になりますが、
きっとこれからしばらく混乱が続くことでしょう。

もちろん、スポーツ界にも大きな影響が出てきます。
早速いくつかのコラムが出ているのでその中でも分かりやすいものをいくつかご紹介します。投票結果が出る前のモノも含んでいますので、前後の動きが掴めるのではないでしょうか。



写真:上記コラムより

写真:上記コラムより


様々な面で大きな影響が出てくるでしょう。

プレミアを目指す日本人選手にとっては明らかに向かい風が強くなり、
プレミアから選手を獲得したいクラブにとっては追い風になります。

Jリーグや日本企業はこの風をうまく読みきれるでしょうか。
非常に難しい舵取りになりますが、
こうした中でも正しい理解に基づき手を打っていかなければなりません。

日本のサッカー界も世界経済の中で中心的なプレーヤーになるために、
この混乱はさけて通れないのです。