2016年7月8日金曜日

別に勝たなくてもいいって言ってるわけじゃないんですケド・・・


今週火曜日、News Picksに新たな記事をアップしてもらいました。
オリックスの記事(前編)で「顧客志向」を扱ったものです。

勝てなくても観客増。ファンをつかむオリックスの「顧客志向」
お陰さまでこちらもたくさんの方にPick頂き、2016年7月8日(金)正午時点で220Pickを記録しています。

概ね皆様から頂いたコメントも好意的なものが多く、内容も深くご理解頂いていると感じています(凄く嬉しいことです!)。

でも、一部の方からは「勝てないことを肯定している」みたいなコメントをもらっています(twitterも含め)。

う〜ん、大多数の方がお分かりのように、勝てないことを肯定しているわけじゃないんですけどね・・・(苦笑)。

大事なことは記事の冒頭に書いているように、チームの状況に関わりなく、いかにファンをスタジアムに集めるか――。」なんです。

つまり、チームが強いときはもちろん、勝てない時もスタジアムを一杯にするのがスポーツマーケターの使命である、ということです。


特に勝てない状況でファンを増やすのは非常に難しいワケで、この偉業を3年連続で形にできている球団の1つがオリックスであり、なぜそれができたのか深掘りしていきましょうよ、ってことが今回の記事で伝えたかったことなんですよね〜。

(そして、スタジアムを満員にすることが実はチーム強化に密接に関係しているんですね。)


さて、ここでプロスポーツビジネスの大まかな傾向を改めて振り返ると、以下の2つを指摘できます。
①チーム年俸総額とリーグ戦順位は中長期的に高い相関関係にある
⇒お金持ち球団ほど優勝の可能性が高く、優勝の可能性が高い球団ほど選手年俸が高い 
②チームの成績が良いとお客さんが多く入りやすい

①はレスター・シティのプレミア制覇が如何に奇跡的であったかを説明するのによく使われる傾向です。なんせイギリスプロサッカーリーグでは、年俸と順位の中長期的な相関関係は非常に強く、年俸が順位の90%を説明する形になっています。
詳しくは下記の本をご覧ください。




②は感覚的にわかりやすいのではないでしょうか?確かにチームが優勝争いをすると観客数はグッと増えますね。
逆に勝てないと観客数がググッと減る傾向が強くなるわけです。(繰り返しになりますが今回の記事で伝えたいのはオリックスはそんな逆境で結果を残したということです。そこには我々が学ぶべき要因がたくさんあるのではないでしょうか。)

もちろん、今のオリックスに競技成績が伴うことが最高です。
日本だとソフトバンクホークスがこの形に一番近いでしょう。

しかし、強いチームを作るにはお金がかかります(お金をかけたからといって絶対に勝てるわけではありませんが、勝てる確率は高くなります)。
問題はそのお金をどう作るかです。

スポーツビジネスの売上の大多数は広告料とテレビ放映権ですが、その価格を決めるのは球団の人気です。

そして、球団の人気を計る最も分かりやすいバロメーターが観客動員です。

さらに、この観客動員はチケットを買って試合観戦してくれる有償顧客の割合を増やしていかねばなりません。


そこで、冒頭の図に戻ります。


横軸をチームの成績、縦軸をスタジアムの満員度にして考えると、
あらゆるプロスポーツ球団が目指すのは両方が伴う①です。
つまり、チームとフロントの両方がしっかりと結果を出している状態です。

③はチームも弱くてスタジアムもガラガラ・・・。
両方惨敗状態で抜本的な改革が必要といえる状態です。

問題は②と④です。
皆さんならどちらを目指すでしょうか?

競技よりの方であるなら④を選択するでしょう。
「チームが強かったらお客さんが来てくれるはずだ!」という考え方です。

ビジネスよりの方でスポーツビジネスを学んでいる方は②を選択するでしょう。
「お客さんをしっかり集めてお金を作り、それをチーム強化への投資資金に回そう」という考え方です。

どっちも正しい考え方ですが、確率の問題で考えると②の方がリスクが低くなります。

なぜなら、チームの成績が年俸総額と強く相関している中で、相対的低年俸球団が優勝する確率は決して高くないからです。低迷している金満球団が復活するのは比較的容易ですが、経済的に弱小な球団が優勝を勝ち取れるチームをいきなり作るのは難しいということはご理解頂けると思います。だって、お金がないんだもん・・・。

間違ってはいけないのは、この確率は決して0ではありません。去年のヤクルトやレスターシティのようなジャイアントキリングは必ず起こります。
ただし、レスターの優勝オッズが当初はネス湖でネッシーが発見されるギャンブルの掛率よりも低かったように、数年に一度起こるかどうかのまさに大ギャンブルなわけです。

であるならば、チームの成績が良くなくても、仲間や友人と一緒に楽しめる空間づくりやファンサービスに徹底することで集客を図るほうがより確実といえます。
そして、近年はこうした傾向が各球団で強化されています。

オリジナルクラフトビールを発売したり、おしゃれなグッズを開発したDeNAしかり、
仲間とBBQをしたり、寝そべりながら試合観戦ができる球場を整備した広島しかり、
観覧車を作った楽天しかり。
(しかも、その端緒となったのは現在最強のホークスですね。100%エンタドーム宣言!、懐かしい・・・)


私の師匠である立命館大学教授の種子田先生はプロスポーツビジネスを「時間消費型エンタテインメントビジネスである」と定義されていますが、まさしくその通りだと思います。

マーケティング論の中で有名なレビットの「近視眼的マーケティング」という考え方が示す通り、
自らのビジネスを「野球をすること」と定義している球団よりも、
「野球を中心とするエンタメ提供」と定義している球団の方がより広い顧客層を確保でき、その分ビジネスチャンスが高まります

そして、しっかりビジネスをして得られた利益を使えば、チームの強化に投資をすることができます。そのためにもファンとしっかり向き合うことが大切なんですが、それが結構できていないところが多いわけで・・・。

こうした考え方を踏まえた上で、今一度News Picksの記事を呼んでいただけると、さらに私の意図したいところがご理解頂けると思います。

勝てなくても観客増。ファンをつかむオリックスの「顧客志向」


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ちなみに、球団の経済状況がチームの成績に与える影響を最小化するために取られている方法がドラフトだったり、サラリーキャップだったり、レベニューシェアだったりします。
それが一番厳格なのがNFLで、これまでスーパーボウルを3年連続で獲ったチームはありません。

ここらへんはスポーツ経済学の本を読まれるといいでしょう。